川と生き物たち

川と生き物たち

 里山の川(小川)の変貌を残っている記録から見直してみます。川の役割がほとんど無くなってしまった現在、川とどんな付き合いをしていけるか考察してみたいと思います。

川の変化:

「里山」を構成するものは山と雑木林、里にある畑と田んぼ、そして一番重要な川。 

川の存在は里山を里山たらしめる所以です。

 むかしむかし、この地に人が住み着いて以来、川と共存しながら何世代にも渡って集落として存続してきました。里山モノジロウが子供の頃は「桃太郎のおとぎ話」のように川で洗濯をしていました。

 その川が今、どうなってしまったか? 残っている資料から見直してみたいと思います。

 源流から数キロメートル以内のこの地域の地層は表面の土の下は「砂岩」の岩盤が広く存在します。 

 川は岩盤を削りながら長い時間をかけて形成された流域を持っています。所どころ「釜(かま)」と言われる岩場の深いところがあります。

 魚類の棲みかとして最適で、両岸には木々が生い茂り、水辺から田畑へとなだらかつながり多様な植生がある地形でした。

 魚類、水生生物、両生類、昆虫、爬虫類、鳥類、小動物が共生できる「ゆりかご」のような川でした。

 小学生のころ、夏休みは毎日、川に遊びに行っていて宿題などやったことがありませんでした。川はプール替わりです。

水中メガネで魚たちが元気に遡上する姿をいつまでも見ていました。

 自然の川だった時代は稲作用の水路を共同管理していて水を田んぼへ引いていました。梅雨の頃にはまるで生き物のように水が流れ田んぼに注ぎこまれます。

 実家を離れて何十年か経った頃、川を見直すと土砂災害を防ぐ目的で河川工事が進み、気づいた時には水辺は無くなっていました。

 ある時期から流域面積と想定降水量から割り出した標準断面方式の護岸工事(両岸と川底)が盛んに行われました。

 水害の危険性も特定の場所に限られているにも関わらず流域の全ての川岸を3面張りにしています。この工事もバブルの終焉を境に無くなりました。残ったのはコンクリートの擁壁に囲まれ水辺の無くなった川だけでした。

 護岸工事後は稲作用の水路が無くなったため揚水ポンプを置かざるを得ません。ポンプの設置と電力料もかかります。しかし、もうこの川の水を使って稲作をする人も限られてきました。

 田んぼが無くなったこともあり両生類が少なくなり爬虫類、特にヘビが少なくなりました。子供の頃は毒ヘビ(マムシ)に注意しろと言われていました。

 爬虫類が減ると小動物も減ります。水辺が無くなることによって食物連鎖が崩れた結果だと思っています。直接の原因かどうか分かりませんがこの頃から「イノシシ」が平地に現れるようになり作物被害が続いています。

 高い堰(せき)が出来て魚たちが行き来出来なくなっていましたので魚類も少なくなっています。

 水生昆虫も減ってツバメが川面を低く飛ぶ姿も見なくなりました。
水辺に覆いかかる木々も無くなって「ホタル」の数も激減しています。

 数百匹のホタルが一斉に光る光景はもう見られそうにありません。

 夏はゼミの声がうるさいほどだったのが今はどこからか聞こえるだけとなりました。

 工事後、何年か経つと川は雨期に増水をくり返し土砂を流します。川底(河床)を削り、岩石がむき出しとなり土砂は流され緩やかな所に堆積してしまいます。

 固定された護岸と自然の流れが矛盾し川幅が極端に狭くなったりしています。標準断面とは何だったのでしょうか。自然の川は自ら曲がり、幅を調整して何千年もここにあり続けています。

 元々、源流の近くで高低差が有り、そうかと言って急流ではなく河床が深く水害の起きにくい地形です。それにも関わらず流域の全てを3面張りにしています。

「治水の神様」を祭った神社がすぐそばにあるにも関わらず。

 このような光景は日本各地で見られるのではないでしょうか。この状況を改善しようと「多自然型」などと言って、川の中央に「巨石」を置いて魚たちの隠れ家を作ったり、「魚道」を作って魚や水生昆虫の行き来を試みたりしているのを見ても必ずしも成功しているとは思えません。すぐに埋ってしまいます。

 しかし、護岸工事や堰によって生息域を阻まれているにも関わらず世代を超えて生き延びている生き物や魚たちもいます。

 ちょうどコロナの影響で人間の生活環境が狭められているのと同じように、狭められた自然環境に耐え続ける生き物たち。コロナは生き物たちの生活環境を狭めてしまった人間への仕返しかもしれません。

 幸か不幸か、未工事区間も残っています。ここは不自然な堆積土砂もなく昔の川の姿を残しています。自然の流れが作り出す川の風景はなぜ美しく感じるのでしょう。

 この魚たちの棲みかを復活させ清らかな流れと水辺を取り戻すのはもう不可能なのでしょうか?  

 この小さな川は幾つもの合流をくり返し1級河川を経由して海に注ぎます。豊かな上流は豊かな流域、そして豊かな海をつくります。

 僅かな時間で変わってしまった人間の意識と価値観、時代の変化と言いきるには何故か心残りがあります。特に自然に対する価値観を見つめ直してみる必要があるのではないでしょうか? コロナ後の世界でどんな変化が押し寄せるか分かりませんが、少しでも自然との共存を基本に地域社会が「リビルト」されることを望みます。

 残った環境の維持と今あるものを大切にして、この里山で自然と共生して行きたいと思います。

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